私は以前、身寄りのない方、身寄りがいても頼れない、またご家族がいても迷惑をかけたくない、そのような主に高齢の方々の家族代わりの支援を行う団体(法人)に勤務していたこともあり、以前より成年後見制度という制度の内容を存じておりました。
行政書士という資格を通じて活動をする関係上、相続、遺言など高齢の方々などと接する機会もあり、そしてその関わり合いの中から様々な問題点も浮き彫りになってくるケースもございます。
実際には、親御さんが「さっき話したことを忘れて、何度も同じことを聞いてくる」「高額な商品の契約を交わしてしまった」など問題が発覚して、この制度について知ることが多いかと思われますが、事前に知ることでご自身そして周りのご家族の方々が安心して生活が送れるよう、改めてこの成年後見制度の要点を皆様に知っていただく機会になればと思い今回書かせていただきます。
1.成年後見制度はだれのための制度
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害により判断能力(※)が不十分な方をサポートするための制度です。
※「判断能力」と書かれているといろんな考えが頭の中をよぎりますが、法律学でいうと「自分がしようとする行為の結果が法律上どのような意味を持っているのか」について、ある程度考えることができる能力のことをいいます。
判断能力が低下すると、サービスの利用、施設を利用するための契約などの法律行為や財産管理が難しくなってくるケースがあります。そのような方々に代わり、家族や専門家が代理人となって財産管理や身上監護(契約締結や治療・療養・看護などに関する法律行為を行うのが成年後見制度です。
2.どのようなときに使える制度なのか
この制度を活用するタイミングとしては、ご自身がまだ判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になるときに備えて、自身が選んだ代理人(任意後見人)と自分の生活、療養看護、財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を結んでおく場合(任意後見)と、実際に判断能力に問題が発生している場合に本人の状況に応じて本人、配偶者、親族等による申立てにより家庭裁判所が後見人を選任するケース(法定後見)とあります。
まずは任意後見制度についてご説明していきます。
3.任意後見制度について
先ほども記載しておりました通り、任意後見制度は本人の判断能力が衰える前に、本人の意思で後見人(任意後見人)を選ぶ制度です。
そのためご自身が財産管理や身上監護を行ってもらう人を自分で決めることができることに特徴があります。
しかし、任意後見人には法定後見人に認められる取消権や同意権がありません。任意後見契約は代理権を付与する委任契約に成年後見制度として一定の効果を付与したものであるため、本人(委任者)の行為能力が制限されることはないのです。
では任意後見制度を利用するための手続きを説明していきます。
流れとしては以下の通りになります。
① 任意後見受任者の決定
↓
② 公正証書で契約締結する
↓
③ 任意後見監督人の申立てをする
↓
④ 任意後見受任者に選任される
① 任意後見受任者の決定
この制度を利用するにはまず任意後見人になってもらう任意後見受任者を決定しなければなりません。
後見人選出にあたっては公的な資格などは必要なく、なれる人の適格についてはご家族・親族だけではなくご友人、弁護士、司法書士、行政書士などがなることができます。
逆に後見人になれない人は、
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・行方不明者
・本院に対して訴訟をし、またはした者及びその配偶者並びに直系血族
・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
になります。
任意後見人は自分で選ぶことができるため、ご自身の判断能力が厳しくなった時、ご自身の財産管理および身上監護を行うのは任意後見人になるため後見人は最後まで責任を全うしてくれる人、ご自身の生活をしっかり守ってくれる信頼できる人を選ぶことが肝要となります。
② 公正証書で契約締結する
任意後見契約受任者と契約内容が決まったら、本人と任意後見受任者との間で任意後見契約を締結します。
契約については本人と任意後見契約受任者の2人で最寄りの公証役場に行き、公正証書にて契約書を作成する必要があります。
公正証書で締結されていない任意後見契約はすべて無効となるため注意が必要です。
契約にあたっては以下の書類が必要となってきます。
(本人について)
① 印鑑登録証明書と実印(または運転免許証・マイナンバー等の顔写真付き公的身分証明書と認印もしくは実印)
② 戸籍謄本もしくは抄本
③ 住民票
(後見受任者)
① 印鑑登録証明書と実印(または運転免許証・マイナンバー等の顔写真付き公的身分証明書と認印もしくは実印)
② 住民票
なお、本人の身体が不自由であるなどの事情があり本人が公証役場へ出向くことができないときは、公証人に自宅に来てもらうこともできます。
続きは成年後見制度②でご説明いたします。